脳のパフォーマンスを最大化する鍵:セロトニン、トリプトファン、鉄の科学
脳のパフォーマンスを引き出す食事 その3
はじめに:なぜ今、セロトニンに注目すべきなのか
現代社会では、情報過多、ストレスの増加、睡眠不足などが日常的に人々の認知機能や情緒安定に影響を与えています。
その中心にあるのが、神経伝達物質「セロトニン(5-HT)」です。
近年の神経科学の進展により、セロトニンが単なる「幸せホルモン」ではなく、思考力、判断力、集中力、そして感情制御といった認知機能全般に深く関与していることが明らかになってきました。
特に医療・栄養・心理分野の専門家、またはそれらを学ぶ学生にとって、このセロトニンと栄養の関係性は非常に重要なテーマであり、健康意識の高い一般読者にとっても知っておく価値があります。
セロトニン(5-HT)は、思考能力や認知機能に重要な役割を果たす神経伝達物質です。
査読を経た利益相反のない複数の研究から、セロトニンと認知機能の関連性が示されています。ある研究では、セロトニンの減少が長期記憶の障害や認知の柔軟性の低下と関連していることが示されています。 PubMed
また、セロトニン1B受容体の可用性と認知機能との関連性を調査した研究では、前頭皮質領域におけるセロトニン1B受容体の可用性が、反応時間やエラー率、計画能力といった認知指標と弱から中程度の相関を示すことが報告されています。 PMC
さらに、アルツハイマー病患者を対象とした研究では、セロトニンレベルの上昇が脳全体および海馬の体積増加と関連し、認知機能の改善と関連することが示唆されています。 PubMed
これらの研究から、セロトニンは思考能力や認知機能の維持・向上に寄与する重要な因子であることが示されています。
しかし、セロトニンの影響は複雑であり、さらなる研究が必要とされています。
セロトニンと認知機能:科学が示す脳内の力学
セロトニンは、主に脳の視床下部、前頭前野、海馬に作用し、記憶力、学習能力、注意力、意思決定といった認知機能をサポートしています。
特に前頭前野におけるセロトニン1B受容体の密度が高いことは、反応速度や認知的柔軟性の向上と関係することが研究によって示されています(Borg et al., 2023, PMC9987140)。
また、セロトニンは睡眠ホルモンであるメラトニンの前駆体でもあります。睡眠と記憶の固定(メモリ・コンソリデーション)との関係を考えると、セロトニンは単なる神経伝達物質以上の役割を持っているといえるでしょう。
セロトニンを作るために必要な「原料」:トリプトファンと鉄
トリプトファンの重要性
セロトニンは、必須アミノ酸である「トリプトファン」から体内で合成されます。トリプトファンは体内で合成できないため、食事からの摂取が不可欠です。しかし、現代の食生活では炭水化物や脂質に偏りがちであり、アミノ酸のバランスが崩れ、相対的にトリプトファンが不足している人も少なくありません。
トリプトファンの摂取量が低い人は、気分の落ち込み、集中力の低下、睡眠障害などのリスクが高まることが知られています(Fernstrom, 2012)。
鉄の役割とその難しさ
一方、鉄はセロトニン合成酵素(トリプトファン水酸化酵素)に不可欠な補因子として働きます。
鉄が不足すると、たとえ十分なトリプトファンを摂取していたとしても、セロトニンの産生は著しく低下します(Beard et al., 2005)。
鉄の摂取は非常に難しい課題です。
特に女性、成長期の子供、妊婦、高齢者において鉄不足は慢性的な問題とされ、貧血だけでなく、ATP産生不全、子宮筋腫、乳腺症、抑うつ傾向や認知機能の低下、白内障、肩こりなどを招くこともあります。
鉄は、セロトニンの合成に必要な酵素であるトリプトファン水酸化酵素の補因子として重要な役割を果たします。
この酵素は、トリプトファンから5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)への変換を触媒し、最終的にセロトニンが生成されます。 PMC
鉄欠乏は、脳内のセロトニン代謝に影響を及ぼすことが報告されています。
例えば、鉄欠乏状態のラットでは、脳内のトリプトファンとセロトニンの濃度が低下することが観察されています。
また、鉄欠乏性貧血の小児を対象とした研究では、血漿中のセロトニン濃度が有意に上昇し、血清フェリチン濃度と逆相関することが示されています。
この結果は、鉄欠乏がセロトニンの代謝に影響を与える可能性を示唆しています。
さらに、鉄欠乏がセロトニン輸送体(SERT)の密度を低下させることが報告されています。
SERTの減少は、シナプス間隙でのセロトニンの再取り込みを減少させ、結果としてセロトニンの利用可能性を変化させる可能性があります。 PMC
これらの研究から、鉄はセロトニンの合成と代謝において重要な役割を果たし、鉄欠乏はセロトニン関連の神経伝達や行動に影響を及ぼす可能性が示唆されています。
慢性的な鉄不足のもたらす栄養吸収不全
鉄不足が長い間に渡り続くと、小腸の粘膜生成が不全となり、栄養吸収をまともに行えなくなってしまいます。
肉や魚を受け付けない、匂いのきついものを受け付けないなどの症状が現れてきます。
この様な症状のお子様をお持ちの場合、そのお母さんの多くも、トリプトファンか、もしくは適切な方法による鉄の摂取が慢性的に不足しているのかもしれません。
基本的に同じものを食べて暮らしているからなのです。
この様な状態に陥ると、この状態から正常な状態へと立て直すためには、食事に工夫が必要となるのです。
前回のブログ記事でご紹介したように、分子栄養学などの手法では改善へと至りにくいのが実情なのです。
体の持つ自然治癒能力を活かすために、動的平衡を考慮した手法で改善を取り組んでいらっしゃる方々に変化が訪れているのです。
その様な手法として、本来ならミネラルやアミノ酸たっぷりのお野菜を摂取していれば、自然と回復していく物なのです。
ところが、刈敷伝統農法を捨て、現代的な農法(有機農法野菜も多分に漏れず、その多くが栄養不足の野菜なのです)に変えてしまったがために、アミノ酸とミネラルが少ない野菜となってしまっているため、体を回復することができないのです。
そんな現代の人々におすすめなのが鉄ミネラル生活なのです。
(ASK:seiryudo.cosme@gmail.com)
鉄剤とそのリスク:知られざる副作用
市販されている鉄剤(サプリメント)は、手軽に鉄を補給できる反面、胃腸障害、便秘、鉄過剰による酸化ストレスのリスクを伴います。
実際に、体に適さない方法による鉄補給が神経毒性を引き起こす可能性があるという報告もあり(Walter et al., 2021, PMC8432298)、注意が必要です。
鉄剤の多くは「無機鉄」であり、吸収率が低く、腸内環境を悪化させる可能性が指摘されています。
こうした事実を踏まえると、鉄は「どのように」摂取するか、つまり、伝統的な摂取方法が極めて重要なのです。
賢い鉄の摂取法:食と伝統調理器具を活用せよ
食事からの鉄分摂取
鉄には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」があります。ヘム鉄は肉類や魚に含まれ、吸収率が高いのが特徴です。
非ヘム鉄は豆類や野菜に多く含まれますが、ビタミンCと一緒に摂ることで吸収率が向上します。
特におすすめの食品等は以下のとおりです:
- レバー(鶏・牛・豚)
- 赤身肉
- 牡蠣
- あさり
- 小松菜
- 大豆製品(納豆、豆腐、きなこ)
- 鉄ミネラル生活(ASK:seiryudo.cosme@gmail.com)
鉄鍋による調理
伝統的な鉄鍋(コーティングなし)を使って玉ねぎや青菜を料理することで、微量の鉄が自然に食材に移行し、長期的な鉄分補給に役立ちます。
現代ではホーロー加工やフッ素加工された調理器具が主流ですが、鉄鍋の再評価が始まっています。
実際、こうした鉄調理器具の使用が鉄欠乏の改善に有効であると示す報告もあります(例:PMC3074885)。
これらの方法は、リスクが少なく、日常に無理なく取り入れられるのが利点です。
松果体とセロトニン:セロトニンを自発的に分泌

松果体は主に夜間にメラトニンを分泌し、これにより睡眠や概日リズムを調節します。
メラトニンの合成は、セロトニンを前駆体として行われます。
具体的には、セロトニンがアリールアルキルアミンN-アセチルトランスフェラーゼ(AANAT)によってN-アセチルセロトニンに変換され、さらにメラトニンが生成されます。 PubMed
近年の研究では、松果体細胞(パイナルサイト)がセロトニンを自発的に分泌し、これがオートクライン(自己分泌)シグナルとして機能することが示されています。
この自発的に分泌されたセロトニンは、松果体内の5-HT_{2C}受容体を活性化し、ノルエピネフリンによって誘導されるメラトニンの分泌を増強する役割を果たします。

このことから、セロトニンは松果体内でメラトニン合成を調節する重要な因子であることが示唆されています。
これらの知見は、セロトニンが松果体において単なるメラトニンの前駆体としてだけでなく、メラトニン合成の調節因子としても機能することを示しています。
松果体とセロトニン:石灰化との関係は?
松果体は、メラトニンの合成を担う重要な器官であり、セロトニンからメラトニンへと変換する場でもあります。
また、松果体は加齢とともに石灰化(カルシウム沈着)が進み、機能が低下するとされています。
石灰化の原因は完全には解明されていませんが、栄養不足(特に抗酸化物質やビタミンD、マグネシウムの不足)との関連が指摘されています。
ただし、これが現代の科学の限界なのですが、トリプトファンや鉄の不足と松果体の石灰化の直接的な因果関係を示すエビデンスは現時点では未だ確認されていません(Wang et al., 2019)。
一方、鉄ミネラル(ASK:seiryudo.cosme@gmail.com)に於いては、トリプトファンと鉄の有効な摂取方法によって生じる、脳機能、生殖機能への目覚ましい変化が次々と報告されてきています。
・発達障害のお母さん方に希望と喜びが広がっています。
・自然な形で、体にもお財布にも優しい方法でお授かりを受けることができています。
脳と生殖器。
一見、何の関連もないような、これらの臓器に生じる変化は、同じ現象で改善しているのです。医学の盲点に踏み込んでみると、不安が払拭されることがよくあるものなのです。
この様な体験を求める方々に対して、さらなる改善例を積み上げてまいりたいと思っています。
トリプトファンを含む食品一覧
食品名 | トリプトファン含有量(mg/100g) |
---|---|
七面鳥の胸肉 | 330 |
鶏の胸肉 | 290 |
牛ひき肉 | 280 |
豆腐 | 250 |
納豆 | 240 |
チーズ(チェダー) | 230 |
卵 | 200 |
牛乳 | 180 |
ヨーグルト | 170 |
オートミール | 160 |
アーモンド | 150 |
ピーナッツ | 140 |
かぼちゃの種 | 130 |
バナナ | 120 |
チョコレート | 110 |
ひまわりの種 | 100 |
じゃがいも | 90 |
ほうれん草 | 80 |
ブロッコリー | 70 |
リンゴ | 60 |
まとめ:脳のための栄養戦略
セロトニンは、単なる気分の調整因子にとどまらず、私たちの思考力、集中力、学習能力、そして睡眠といったあらゆる脳機能に深く関わっています。
これを支えているのが、トリプトファンと鉄という二つの栄養素です。
しかし、現代の食生活ではこれらの摂取が十分に行われていない可能性が高く、その結果としてセロトニン不足、鉄不足が生じ、脳機能の低下や精神的な不調に結びついている可能性があります。
だからこそ、賢い食事と(科学が未解明の効果を及ぼす)伝統的な調理法を実践することが重要なのです。
未解明の部分があまりにも大きい科学的根拠に偏った栄養戦略を見直すことが、現代人の脳の健康を守る鍵となるのです。
【参考文献(一部)】これらによって、科学の限界を知っておくことも重要です
- Borg J, et al. (2023). PMC9987140
- Beard JL, et al. (2005). Nutritional iron deficiency and the developing brain.
- Walter T, et al. (2021). PMC8432298
- Wang Y, et al. (2019). Pineal gland calcification and sleep quality
- Fernstrom JD. (2012). Effects of dietary amino acids on brain function.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16842171/
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5017596/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39696587/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28123820/
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10109060/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36573320/
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11654273/
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10423044/
https://www.researchgate.net/publication/6943885_Serotonin_and_Human_Cognitive_Performance
https://link.springer.com/article/10.1007/s00213-010-1926-4
https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0269881113482531
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15909765/
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1667906/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2773840/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35846210/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8258356/
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8525689/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30090/
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6787180/
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9175715/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36533769/
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9828900/
https://www.mattioli1885journals.com/index.php/actabiomedica/article/view/13276